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2022年12月14日
ENEOS系地場大手の旭油業(本社=大阪市北区/西尾恒太社長)が手がけた〝地域住民参加型のイベント〟が、大盛況のうちに幕を閉じた。その名も『レギュラー満タン!合唱隊』。SSのフィールドを開放して行われた歌の発表会である。
合唱隊のメンバーは、同社のLINE会員に参加を呼びかけて集まった老若男女30名のお客様。毎週日曜の早朝、南森町SSに集合し、4週続けて2時間の練習を実施。最後の本番で観覧客も迎え入れ、練習の成果を発表(場所は上六SS)した。
スタンドで合唱!というギャップが話題を呼び、この時の模様は各メディアで大きく取り上げられた。本番終了後、感極まって涙を流す参加者たち。「地域との関わりを深めたい」(西尾淳副社長)とする同社の思いが、お客様の心にまで届いた瞬間でもあった。
だが、この取り組みをただの地域イベントとして紹介するだけでは、あまりにももったいない。というのも、同社はある明確な意思を持って開催にこぎつけているからだ。
実は昨年(2021年5月号掲載)、西尾副社長をインタビューした際、「地元SSは地域のプラットフォーマーになり得る」と話し、今後は自分たちなりにソーシャルコマース(生活者と店舗が交流を図りながらビジネスを展開すること)の可能性を模索したいと語っていた。
果たして今回の合唱イベントが、どのような事業モデルの形成に寄与しようというのか。改めて西尾副社長に話を聞くことにした。
今回の話の前段階として、「LINE会員」の存在が欠かせない。実は西尾副社長が旗振り役となって、LINE公式アカウントを開設したのが2020年7月のこと。それ以来、LINE会員の獲得に力を注いできた。
それまで全くの〝ゼロ〟だったLINE会員数は、直営16カ所による人海戦術で、約半年の間に3万5000人を突破。その年(2021年)の決算月=9月末には5万人を超えた。
その後も同社はLINEを通してお客様に興味を持っていただける施策を打ち続け、新規客の固定化を推進。現在は8万人を突破し、年内には10万人を超える見通しだ。
この辺りまでくると、当初LINE販促に半信半疑だった会社の社員も、認めざるを得なくなったという。本社サイドが責任を持って送客を担う代わりに、現場は来店客の固定化に集中する。これは当初より西尾副社長が話していた〝狙い(現場と本社の役割分担)〟そのものである。
またお客様からの反響も目に見えて分かるようになった。とくにLINEの開設と合わせてスタートしたInstagramとYouTubeチャンネルへのリンク移動が加速。コメントやDMから励ましの言葉をもらうなど、会社の広報活動に弾みがついた。
機が熟したと察した西尾副社長は、次の戦略に打って出る。
LINE会員を相手に〝お客様同士の交流会〟を企てたのだ。その記念すべき第一回目がそう、今回の『レギュラー満タン!合唱隊』だったのである。
その理由はもちろん、コロナ禍で鬱蒼とした気分を晴らすため…ではない。西尾副社長が語る。
「ファンミーティングの開催です。普段当社のSSを利用してくださっている方々が、一つの目標に向かって汗を流し、本番の達成感を共有する。その過程で参加メンバーは絆を深め、仲間意識が高まり、さらなるアイデアも生まれていく…。地域のコミュニティ自体が希薄している中で、楽しみの場の提供は、自分たちにできる地域貢献の一つだと考えます。
その一方で、我々がファンミーティングを開催する最大の目的は、お客様から直に生の声をちょうだいすることにある。画一的なアンケートでは浮かび上がらないお客様の本音や要望、あったら嬉しいサービス…等々をどのように改善に活かしていくか。生産性の向上に繋げてこその交流イベントです」と強調する。
実際、合唱隊のメンバーとLINEグループを形成している西尾副社長の元には、感謝や再開催を望む声が多数集まっている。
実は何を隠そう西尾副社長自身、合唱隊の一人として練習に毎回参加し、本番では体全身を使って誰よりも大きな声を張り上げた。メンバーにとって西尾副社長は、ただの〝いつも利用しているスタンドの経営幹部〟ではない。苦楽を共にした盟友なのだ。そこには本音で何でも聞ける関係性がある。
しかもこのイベントを企画運営するにあたって、西尾副社長は社員の手をほとんど借りず、自分一人で進めてきた。本番当日だけ少し手伝ってもらったが、あとは日頃の仕事の邪魔にならないように配慮した。終わって見れば大盛況。世間からの注目を浴びる中で、社員の方々は誇りに感じたに違いない。
もちろん、西尾副社長にとってこれはゴールではない。地元ユーザーの日々の暮らしに寄り添いながら、あらゆる分野でファンミーティングを形成し、自分たちの存在価値を極限まで高めるのが狙いだ。すでに第二弾、第三弾の企画として、同社アスリート社員による駆けっこ教室や、考案中の新規事業で行う運動会など、業種の垣根を超えたイベントを考えている。
「どのような分野からでも送客できるのが私たちの強みです。ワクワクした気分で移動できる企画を増やせば増やすほど、お客様との関係性も深まっていきます。今後は自分たちのネットワーク内だけでなく、地元の小規模店と協業することで、さらなる相互送客を実現したい。これは言い換えれば〝給油〟という信用の対価を軸に、さまざまなビジネスに進出しているのと同じこと。
さらに共同クーポンやお得情報の配信によって、地元メディア(BtoB)としての可能性も高まるはずです。便利でよかった、お得に給油できて助かる…。そんなお客様の心に芽生えた気持ちの連鎖こそ、地元SSが輝くプラットフォームの最終形だと考えております」(西尾副社長)
リアルの店舗に集まったお客様を会員化するだけではない。そこからファンミーティングという、前向きな意思を共有できる関係性の深い母数を増やすこと…。まさに未来に渡って地域に愛され、持続可能な運営を実現できる企業像も、そんな姿と言えそうだ。
P.130 「地場大手の先見的な運営戦略 旭油業 地域の橋渡し役を担う 」より
【 掲載ガソリンスタンド 】
上六SS / 旭油業(株)(大阪府大阪市)
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